ナメクジの害と危険性
ナメクジの危険性は…
ナメクジは、北海道から沖縄まで全国に生息しています。現在、都市・農村地帯を問わずよく見られるナメクジは、フタスジナメクジとチャコウラナメクジ(写真)の 2種類です。フタスジナメクジは、体長が 6~7cmになる比較的に大型のナメクジで、体全体が灰色をしています。日本の在来種で、昭和のころまではナメクジと言えばこの種のことでした。一方、チャコウラナメクジは、体長が一般に 5cm程度とひと回り小さく、細めの茶色い体をしています。外来種で1950年代に米軍物資とともに上陸したと思われ、国内の物流の発達とともに全国的に生息域を拡大し、現在ではフタスジナメクジより優勢と言われています。
日本各地には上記の 2種類以外にも多くのナメクジが生息していますが、その中に毒性を持つものや特定の病原性細菌・ウイルスの感染源となるものは見つかっていません。しかし、危険な寄生虫の宿主となっている場合がありますので、気をつけなければなりません。
ナメクジに寄生する広東住血線虫の生態
広東住血線虫(かんとん-じゅうけつ-せんちゅう)の住血とは、血液中に生息するという意味です。幼虫がネズミに寄生して成長した後、その肺動脈の中で糸状の成虫(体長22~23mm)となって産卵します。その卵から孵化した幼虫は肺の毛細血管から気管内に移動し、消化管に入って糞とともに排泄されます。排泄された糞の中の幼虫は、ナメクジやカタツムリに糞とともに食べられるか接触することでその体内に寄生します。こうして新しい宿主となったナメクジ・カタツムリがネズミに捕食されるか、またはいったんカエルやトカゲに捕食されて、その捕食者をネズミが捕食することにより、幼虫は再びネズミの体内に寄生して成長し、肺動脈内で成虫となって産卵します。
ナメクジから人への感染による広東住血線虫症
広東住血線虫が繁殖するためには幼虫がネズミに寄生しなければならないのですが、宿主であるナメクジやカタツムリから人への寄生も発生します。人に寄生した場合は、成虫になることが出来ずに死滅します。しかし、それまでに幼虫は中枢神経へ移動し、脊髄・脳の血管や髄液の中に寄生して広東住血線虫症を発症させます。
広東住血線虫症は、感染から約2週間の潜伏期間を経て、寄生した部位での出血と腫瘍の一種である肉芽腫の形成を引き起こしますが、もっとも危険な症状は好酸球性髄膜脳炎です。白血球の一種である好酸球が異常に増殖し、発熱、激しい頭痛、嘔吐、首の硬直、脳神経麻痺などの症状を引き起こし、寄生虫の数が多い場合には死亡することもあります。また、治癒した場合でも、失明、知能の遅れ、てんかんなどの後遺症を残すことがあります。ただし、典型的な症例では、発症してから2~4週間で自然治癒します。
広東住血線虫症の発生状況と予防対策
広東住血線虫は、東南アジアからオセアニアにかけて広く分布し、国内では南西諸島の内、琉球諸島に多く分布しています。2000年には、沖縄で米軍関係者の7歳の少女が広東住血線虫症で亡くなりました。それが国内で唯一の死亡例ですが、その他の患者の多数が沖縄県在住者と沖縄への旅行者によって占められています。ただし、沖縄県以外の地域でも、沖縄方面への旅行経験のない人に発症した例があります。また、本土各地の港湾地域でネズミ、カタツムリ、ナメクジから広東住血線虫が検出されています。
感染経路として確実なものは経口感染です。ナメクジやカタツムリを民間療法として生で食べたり、それらを捕食したカエルやトカゲを食材として生で食べたケースです。また、生野菜に幼虫が付着していたと考えられるケースもあります。接触感染については、生きているナメクジやカタツムリに触れても感染は起こりにくいとされていますが、死骸からは幼虫が体液とともに外に出てくるため、それに触れることで感染する可能性があると考えられています。
従って、広東住血線虫症を予防するためには、ナメクジ・カタツムリとその捕食動物を食べるときは加熱調理をすること、生野菜は丁寧に水洗いすること、ナメクジ・カタツムリの死骸には触らないことなどを心掛けてください。
ナメクジを口に入れたり、死骸に触ったりしたら、
広東住血線虫症を発症する可能性があります。
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